開発ストーリー|Spec-A
《コーナーとコーナーの間の加速競争》
以前から聞きたかったのは、山本英人が好きなエンジンだ。
「2ストは構造が単純やし、煙が出るから、あんまり好きやないなぁ。強制的に空気を押し込む過給機にも、興味は湧かんね」
つまり、自然吸気の4ストが大好き。こうしたエンジンにとって大切なことはなんだろう?
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「ホンダとM社の軽自動車のエンジンの違いって、わかる?」
わからない。解説をお願いすると……
「ホンダのエンジンは常用域から上のトルクが厚くて、気持ちよく走る。カムプロフィールや燃焼室形状、ポート形状なんかが、ガソリンをきちんと燃やす設定になってんねん。圧縮を上げ過ぎるとフリクションになるから、ここもうまいことバランスをとってなぁ。
一方のM社は低回転のトルクこそあるけど、常用回転域から上はトルクが細く、燃費も悪いんや。うまく燃やせてない。昔からそう。この差はおっきいんや」
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いかに、きれいに燃やすか?……山本英人がこだわっているのはコレだ。本田技術研究所が束になって、追い求めているのもコレ。
では、きれいに燃やしたうえで、バイクにふさわしい特性とは?
「サーキットを1周回ってきて、速かったらいいんちゃう?」
直線が速いだけでは、ラップタイムが縮まらない。
「サーキットはコーナーとコーナーの間の加速競争やからなぁ」
つまり、コーナーの立ち上がりでスロットルを開けやすく、中間トルクがしっかり出ているほうが勝つ。
ニューモデルの開発者インタビューでも同じ話をよく聞く。たとえば……
「最高速度を追求するんじゃなくて、クリッピングポイントからの20mで1cmでも多くライバルの前に出る。そういう出力特性にしたほうが、結局はストレートでスピードも伸びるし、ラップタイムも速いんです」
まさに、この特性。1周回って速いパワーフィーリングにするのがSpec-Aの使命だ。
実はこれ、峠道やツーリングでも、気持ちよく走れることを意味する。スロットルを開けやすくて、トルクフルで、中間加速に優れているのだから。
《ノーマル神話も根強いけれど》
こうしたマフラー作りの哲学は創業当時から一貫している。
しかし、近年のニューモデルは燃料噴射と排気デバイスが当たり前。しかも、その制御にバイクメーカーが慣れてくるにしたがって、ノーマルマフラーのあり方も変わってきた。
その典型が、ミッドシップスタイルだ。強制的に燃料を噴射するFIでなければ、これほど長さが不自然な(?)形状は成立しなかっただろう。
それでいて、免許を取ったばかりの人が乗っても、ベテランライダーが乗っても、問題がないように作られている。どんなふうに何万km走ってもトラブルが起きないのも驚異的だ。
「本当によくできてるよ、ノーマルは。メーカーさんも苦労していると思うわ」
ライダーの中にも「ノーマルが一番」という声が根強くある。では、Spec-Aに交換するメリットとは?
「レスポンスと加速、音やね」
信号が青に変わって発進するとき、高速道路でクルマを追い越すとき、ワインディングロードでコーナーを立ち上がるときの「スロットルレスポンス」がよくなって、たくましく加速するようになる。特に、最高出力発生回転数の半分くらいから上でその効果が顕著だ。
最近のノーマルマフラーは、フルフェイスヘルメットを被っていると、ほとんど排気音が聞こえない。これを法律が許す範囲で、いい音に変えてあげるのもSpec-Aの役割だ。それでいて、ロングランでも耳障りにならない音量に抑えられている。
もちろん、公道仕様は政府認証品=車検対応。安心して装着できる。
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筆者が数多くのSpec-Aに試乗してきた経験では、燃費が向上するケースも多かった。
ドライバビリティに優れていて、意のままにトルクが出てくるぶん、必要以上にスロットルを開ける必要がなくなるからだろう。
バイクの取りまわしが軽くなるだけでなく、コーナーで車体を倒し込むときのキレ感(軽快感)が増すのも、見逃せない効果。
ノーマルマフラーのようにエキパイがどす黒く焼けたり、サイレンサーに茶色いリング状の焼けができたりしないのもうれしいところだ。
筆者はCB1300SFにSpec-Aを装着して1万km以上走行したことがあるが、耐久性にまったく問題はなかった。精度と品質の高さは冒頭の「はじめに」でお話しした通り。
バイク雑誌の取材で様々なマフラーを撮影していると、Spec-Aのサイレンサーのエンドピースとシェルの隙間のなさ、リベット部分のゆがみのなさにも感心する。
「実は、以前にお客さんから、もう少し隙間を詰めてほしいって言われたことがあるんです。この部分のハメ込みと固定はけっこう難しくて……。試行錯誤の結果、0.5mm詰められたので、お客さんに“交換させてください”って連絡して、新しいサイレンサーを送りました」(山本聖談)
自社一貫生産だから、そして、お客様想いのモノづくりをしているからこそのエピソードだろう。
→「開発ストーリー|Spec-A FAQ(よくある質問とその答え)」へ続く